食物アレルギー③

[2022年07月23日]

梅雨も明け、本格的な夏を迎えつつあります。コロナも第7波となりなかなか

減る兆しもない感じですね。。安倍元総理の銃撃事件など悪いニュースが多い中、

唯一明るいニュースは、大谷選手でしょうか。投手としてあと1勝あげれば、

ベーブ・ルース以来104年ぶりの”2桁勝利&2桁本塁打”の快挙だそうです。

同じ日本人としてとても誇らしく思います。

もう1つうれしいことがありました。蝉の鳴き声も聞こえだし夏っぽくなってきて

いますが、先日駐車場のアスファルトの上になにやらうごめいている茶色い物体が

落ちていたので拾ってみると蝉の幼虫でした。

樹に掴まらせても弱って力がないのかすぐ落ちてしまうのでシャンプーボトルに

ガーゼをまいて捕まりやすいようにしてあげたら、安定したのか脱皮をし始め、

成虫になって飛んで行ってくれました。蝉はだいたい7年くらい幼虫として土の中で

過ごして、やっと成虫となり地上に出て7日間しか寿命がないことは有名ですよね。

成虫になる前に踏まれたりして死ななくてよかった!元気にまた子孫を残してくれたら

と願います。

 

 

 

 

 

 

 

さて、本題です。今回はちょっと間が空きましたが食物アレルギーの第3回目になります。

痒がる犬や猫を見たときに、ご飯のせいにしたくなる飼い主さんは多いように思います。

しかし、私の経験上、ご飯のみで皮膚が良くなる食物アレルギー単独の症例はそれほど

多くないように感じます。

食物アレルギーは、アトピー性皮膚炎と異なり原因となる食物抗原が体に入ってこなけれ

ば、皮膚の症状は出ません。つまり、ご飯以外の治療は一切必要ありません。

これに対して、アトピー性皮膚炎は問題となる環境抗原(アレルゲン)が入ってこなくても

皮膚の構造上の異常があるため、見た目がきれいで症状がなくても日ごろのスキンケアなど

手間をかけてあげる必要があります。

そういったことからいうと、アトピー性皮膚炎は治らない皮膚病で、食物アレルギーは

ご飯さえ合っていれば、投薬もスキンケアもいらないので広い意味で治る皮膚病と言っても

いいと思います。

 

それでは、食物アレルギーの診断はどのようにするのか?とういうことですが、理論上は

とても簡単です。原因となる食物の入っていないご飯を食べさせて症状が改善したら、

次に原因として疑わしい食物を1品ずつ食べさせて症状が出るかどうかを確認することです。

前半の検査を除去食試験と言い、後半の検査を食物暴露試験(食物負荷試験)と言います。

現時点での食物アレルギーの診断のゴールドスタンダードはこの2つの試験を組み合わせた

方法とされています。ただ、理論上は簡単なのですが、現実としてはとても難しい検査です。

なぜ、難しいのかというと、原因となる食物がわかっていない状態で除去食試験をする

ためのご飯を探す必要があるからです。検査をするためのご飯を探すのがとても大変

なんです。検査のためのご飯が間違えていた場合、検査自体が成立しません。

とりあえず、ご飯替えましょうと無目的にご飯だけ替えてもなかなか見つけられません。

下手な鉄砲も数打うちゃ当たるで、何種類も試せばいずれ当たるかもしれませんが、

探している途中で当たりフードに出会わない限り、症状は改善されず、痒みがひどくなり

がまんできずに見つかる前にほとんどがギブアップしてしまいます。

検査に用いるご飯は、ホームメード食か既製品の2種類から選ぶことになります。

どちらもメリット・デメリットがあります。

ホームメード食は、原料を絞れる(少なくできる)ことがメリットですが、手間がかかる

検査期間が長くなると栄養の偏りが出てしまうということがデメリットとなります。

既製品は、一般に療法食として販売されているものになります。メリットは、準備が簡単

栄養バランスがとれているということがあげられます。デメリットは、タンパク源が数種類

入っている、副原料に注意する必要があるということになります。

皮膚用の療法食だからと言って万能ではありません。

皮膚用の療法食の中には加水分解食という特殊なご飯もあります。タンパク質はアミノ酸

を最小構成単位として連なってできたものです。体がタンパク質を抗原として認識する

ためには、ある程度の大きさが必要なのですが、このタンパク質を体が抗原として認識

できないサイズにまで分解したものが加水分解食といわれるご飯です。

ほとんどの加水分解食は、アミノ酸がある程度連なったペプチドと言われる構成単位まで

分解されたご飯です。一見、万能食のように思われがちですが、有効なのはIgEの反応する

Ⅰ型アレルギーのみで、リンパ球の反応するⅣ型アレルギーの場合は症状が出てしまいます。

この問題を解決するために、リンパ球も反応できない最小単位のアミノ酸まで分解している

フードが開発されています。理論上、100%アミノ酸のみでできたフードであれば完璧なの

ですが、残念ながら現在入手できる加水分解アミノ酸療法食が100%のアミノ酸食ではないと

いうことと、副原料も入っていることを考慮すると、市販の加水分解アミノ酸食もやはり

食物アレルギーの万能食にはなり得ません。

人では完全な100%アミノ酸食が存在するそうですが、ペットフードで100%アミノ酸食を作った場合

3kgで10万くらいで売らないと元が取れないそうです。現在、動物用のアミノ酸食と言われる製品

が3kgで8千円台(それでもかなり高い…)ということを考えても明らかに100%アミノ酸食では

ないことは確かだと思います。

 

もう1つの難しい理由は、除去食試験は厳密に行わなければいけないことです。除去食試験は、

実際は飼い主さんに自宅で行ってもらわなけらばなりません。試験期間中は検査に用いるご飯と水以外

はいっさい食べないようにしてもらう必要があります。散歩中の拾い食いやフィラリアやノミダニ

などのフレーバー入りのお薬も一切与えてはいけません。家族全員に検査の徹底をしてもらう

必要があります。家族の誰かがこっそりおやつなどをあげていたり、拾い食いしたのを見逃して

しまうと診断を誤ってしまいます。

 

どうですか?食物アレルギーの診断は理論上は簡単ですが、いざ実施しようと思うと

難しい問題がたくさんあることがおわかりいただけたでしょうか。

しかし、実際はちょっとした工夫や教科書的な方法を少しアレンジすることによって診断精度を

上げることも可能です。検査前にある程度除外することもできますし、痒みがかなりひどい場合

でも、除去食試験をうまく行える方法もあります。ただし、院内で行う他の検査と違う点は、

飼い主さんに依存する部分が大きいというところです。検査を行えるかどうかの判断基準には

飼い主さんが除去食試験をきちんと理解し、ルールをしっかりと守れるかどうかが大きく関わって

きます。

食物アレルギーの診断は、大変で難しいとさんざん言ってきましたが、それでも可能なら

ぜひチャレンジすべきだと思います。その理由は、もし食物アレルギーだったとしたら

痒み止めの内服薬が減らせるかもしれないし、それどころかすべてやめられるかもしれない

からです。検査をしないことで、そのチャンスを放棄している可能性があります。

また、逆に食物アレルギーではなく、アトピー性皮膚炎だったとしたらご飯やおやつのことを

まったく気にしなくても済むようになります。食べ物を気にしなくて済むということは、

手間的にも精神的にも飼い主さんにとってかなり負担が軽くなります。

 

今回は、だいぶ長くなってしまいましたのでこれまでとします、次回からは実際の症例の

ご紹介をしたいと思います。なるべく早めにしたいと思いますので、お楽しみに!

 

森の樹動物病院は、鹿児島で犬と猫の皮膚病、食物アレルギーの治療に力を入れています。

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なお、皮膚科診療の初診は、時間がかかるため予約制とさせていただいております。

皮膚科診察(初診)ご希望の方は、お電話にてご予約をお願いいたします。

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お話とお薬の処方のみとなることもございますので予めご了承ください。