脱毛③

[2021年05月09日]

脱毛の第3回目です。内容的には副腎皮質機能亢進症の第2回目になります。

それでは早速ですが、前回の続きです。

クッシング症候群では、”症候群”と言われるように多くの特徴的な臨床症状が認められます。

診断する前にまず、その特徴的な臨床症状があるのかどうかを確認することが重要となります。

なぜ臨床症状の確認が大事なのかというと、臨床症状を伴わない副腎皮質機能亢進症は治療

対象外とされているからです。

最近では副腎皮質機能亢進症の見落としは少なくなった代わりに副腎皮質機能亢進症でない犬

を過剰診断したり、臨床症状のない治療対象外の犬への過剰治療が増えてきているそうです。

副腎皮質機能亢進症を調べるための検査には内分泌試験というものがありますが、この内分泌試験

の結果のみで副腎皮質機能亢進症を診断しようとすると上のようなことが起きてしまう可能性が

でてきます。いずれも完璧な検査ではないため、それぞれの内分泌検査のみでは確定診断はでき

ないからです。さらに、臨床症状の確認をせずに内分泌検査の結果のみを鵜呑みにしてしまうと

過剰診断してしまう可能性がでてきます。そういうことから、副腎皮質機能亢進症の最も信頼度

の高い検査は、問診であると言われています。

臨床症状が大事という点では、犬アトピー性皮膚炎とも同じですね。臨床症状を確認せずに

アレルギー検査だけを鵜呑みにしてしまうと誤診したり、治療がうまくいかなかったりします。

 

臨床症状は、主に内因性グルココルチコイドであるコルチゾールのもつ多くの生理作用に

よって多岐にわたります。

よく見られる症状には、多飲多尿、多食、腹囲膨満、パンティング(呼吸がハアハアなる)

などが見られますが、いずれも80~90%くらいで必ずしも見られるわけではありません。

皮膚症状に関しては、報告により出現率の差はありますが脱毛がよく認められ、だいたい

80%くらいだと言われています。その他の皮膚症状としては、色素沈着、皮膚の菲薄化、

膿皮症などの感染症、脂漏症、石灰沈着などがみられます。これらの症状は、過剰なコルチ

ゾールによる毛根の休止やコラーゲンの異化作用、免疫抑制作用などによるものです。

その他にも糖尿病や尿失禁、顔面神経麻痺、沈うつ、傷の癒合不全、睾丸の萎縮、継続的な

無発情などいろいろあります。

発生頻度は多くはありませんが、肺血栓などの血栓塞栓症は副腎皮質機亢進症の死因となる

こともあり注意が必要な症状です。

全身性高血圧症が認められることもあり、副腎皮質機能亢進症の犬の31~86%に認められる

という報告がされています。最近見た論文でちょうど副腎皮質機能亢進症と全身性高血圧症に

関してのものがありましたが、とても興味深い内容でした。

Journal of Veterinary Internal Medicineに2020年12月にPublishされたもので、スペインの

グループが下垂体性副腎皮質機能亢進症の犬で全身性高血圧症とトリロスタンというお薬の

内科治療の反応との関連性を研究したというものでした。

その内容は、下垂体性副腎皮質機能亢進症の症状がコントロールができていても高血圧が認め

られることがあり、症状のコントロールと高血圧には関係はないということと、副腎皮質機能

亢進症と診断されたときに高血圧がなくても、3頭に1頭はその後に高血圧が認められたという

ことでした。

要は、副腎皮質機能亢進症を治療して症状がコントロール出来ていたとしても高血圧が治まるとは

限らないので、定期的に血圧測定して高血圧があればきちんと降圧剤による治療をしましょう。

最初に高血圧がなくても治療中に高血圧が認められることもあるのできちんと定期的に血圧測定を

しましょうね、とういう事です。

全身性高血圧症も血栓塞栓症と同様に命に関わることがありますので要注意です。

 

最初のほうに述べた内分泌試験には、ACTH刺激試験、低用量デキサメサゾン抑制試験、高用量デキサ

メサゾン抑制試験の3つがありますが、それぞれにメリット、デメリットがあります。すべての検査

には感度と特異度という指標がありますが、そのどちらも高い検査は存在しません。ちなみに、

感度が低いと見逃しやすく、特異度が低いと過剰診断をしやすくなってしまいます。

副腎皮質機能亢進症で問題となるコルチゾールは、ストレスや合併症によってかなり変動してしまう

ため、それぞれの検査の感度と特異度に影響を及ぼしてしまいます。検査する時間帯や環境にも

かなり気をつかわなければなりません。そこが、これらの検査の難しいところだと思います。

それぞれの検査には弱点があるのでそこを理解した上で検査をし、結果を解釈しなければならないと

いうことです。それぞれの検査についての説明は割愛させていただきます。

内分泌試験には、上記のような弱点がありますのでこれらの検査のみで診断をしようとしてはいけ

ません。必ず一般血液検査や画像診断検査などの他の検査を組み合わせて診断をしていくことが推奨

されています。いくつかの検査を組み合わせることによって検査の信頼性を上げるということです。

まさに、柔道の合わせ技1本という感じです。いきなり、1本を取りに行こうと焦ってしまうと逆に

やられかねないということですね。

ちなみに話は変わりますが、東京オリンピックってどうなるんでしょうか?ついこの間、霧島市

でも聖火ランナーが走っていましたが、今現在のコロナ感染の状況と都市部の医療逼迫をみている

とほんとにやれるのかなと思ってしまうのは私だけでしょうか。

今回はここまでです。次回はやっと症例の写真をご紹介できると思います。

 

森の樹動物病院は、鹿児島で犬と猫の皮膚病、内分泌疾患による脱毛症の治療に

力を入れています。

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