脱毛①

[2021年05月06日]

ゴールデンウィークも終わってしまいましたね。

昨年に引き続き、今年も新型コロナウイルスの影響でお出かけも思うようにできなかった

方も多かったかもしれないですね。

さていきなり問題ですが、犬と猫の皮膚病で来院される主訴で多いものは何だと思いますか?

1番多いのは、”痒み”です。痒みを示す皮膚病の代表は、アレルギー性皮膚炎などの過敏症ですが、

その他に疥癬や膿皮症などの感染症でも痒みがでます。痒みは気付きやすく、見ていて辛そう

なので飼い主さんが気になりやすい症状の1つです。

2番目は、脱毛です。脱毛は見てすぐ気づきますので、これも飼い主さんが気になりやすい

症状の1つです。私のブログのほとんどは痒みの症状を示す皮膚病が多かったですが、

今回は脱毛を引き起こす皮膚病のご紹介をしたいと思います。

 

脱毛は、炎症の有無により炎症性脱毛と非炎症性脱毛に分けられます。まずこの2つを

見分けることが大事です。炎症の有無により、考えられる鑑別疾患が全く異なってくる

からです。次に発症が若齢か高齢かによって、さらに鑑別疾患が絞り込まれます。

今回ご紹介する皮膚病は、内分泌疾患による脱毛です。内分泌疾患による脱毛の特徴は、

非炎症性脱毛で高齢期に発症することが多いということです。ちなみに非炎症性脱毛で

若齢期の発症であれば、毛包に異常を起こす先天性皮膚疾患を疑います。

内分泌疾患による脱毛の代表は、副腎皮質機能亢進症、性ホルモン関連性皮膚症、甲状腺

機能低下症があげられます。これらの病気による脱毛の特徴は、全身性の左右対称性脱毛で

痒みがないということです。ただし、気をつけないといけないのは二次感染を起こしている

と痒みがあるということです。これらの内分泌性疾患では免疫力の低下や皮膚バリア機能の

低下などにより細菌や真菌、寄生虫などの二次感染を起こしやす状態になっています。

ですので、感染をコントロールした上で痒みの症状の評価をする必要があります。

他の皮膚病とは異なり、内分泌性疾患で気をつけないといけないのは、皮膚症状はあくまで

症状の1つであり、その他の全身症状にも注意しないといけないということです。

私は内分泌性疾患を疑う場合、基本的に副腎皮質機能亢進症、性ホルモン関連性皮膚症、

甲状腺機能低下症の順番で絞り込んでいくようにしています。これには理由があります。

この順番で命に関わる可能性が高いからです。

もう1つの理由は、副腎皮質機能亢進症など他の疾患があると甲状腺ホルモンは抑制を

受けるため低値となり、甲状腺機能は正常なのに低下症だと誤診してしまう可能性がある

からです。この現象をEuthyroid Sick Syndromeと言いますが、糖尿病や腎疾患、肝疾患、

循環器疾患などがある場合やステロイドやてんかんのお薬であるフェノバルビタールなどの

特定の薬剤を使用していても甲状腺ホルモンを減少させることがありますので要注意です。

こういった理由で、甲状腺機能低下症の診断は最後になっています。

 

甲状腺機能低下症は、確定診断となる検査が今のところありませんので甲状腺機能低下症

を疑う臨床症状と基礎疾患の有無、甲状腺ホルモン検査の結果等を注意深く判断した上で

診断していかないと誤診する可能性が高くなります。診断が出来たら、治療はとても簡単で

甲状腺ホルモンのお薬を飲んでいくだけです。治療は生涯にわたりますが、きちんとお薬を

飲んでいさえすれば予後は良好です。

 

性ホルモン関連性皮膚症では、脱毛症に加え、陰部や乳腺の形態的変化、精巣の左右非対称

などが認められることがあります。性ホルモン失調ともいわれ、エストロジェンやプロゲステ

ロン、テストステロンなどの産生異常が報告されていますが、病態自体がまだよくわかってい

ないこともあり、確定診断する検査はありません。

治療は子宮卵巣全摘出(避妊手術)、精巣摘出(去勢手術)になります。しかし、実際は手術

してみて、発毛してくるか経過をみる治療的診断となりますので、手術前にレントゲンやエコー

などによる形態的異常の有無の確認、他の脱毛症の鑑別をしっかりと行った上で手術をするのか

どうかを十分に検討する必要があります。

手術後、発毛による治療効果の判定には少なくとも3か月は観察する必要があります。

精巣や卵巣の腫瘍だった場合、悪性であれば、リンパ節転移や腹腔内播種、骨髄抑制などが

見られることもあり、予後不良となる可能性もあります。

 

ちょっと長くなってしまいましたので、副腎皮質機能亢進症については、実際の症例とともに

次回のブログでご紹介したいと思います。

 

森の樹動物病院は、鹿児島で犬と猫の皮膚病、アレルギー性皮膚疾患や脱毛症の治療に

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