猫の落葉状天疱瘡 症例編

[2021年05月02日]

5月に入りましたね。早い人だと4月29日から、ゴールデンウィークに入っているので

しょうか。昨日は雨が降ったりやんだりして、どんよりとした嫌な天気でしたが、今日は

一転とてもいい天気です。しかし、風がすごいですね。。

 

さて、今回は前回ご紹介した猫の落葉状天疱瘡の実際の治療例のご紹介をさせていただきます。

前回は文字ばかりでしたが、今回は写真があります。

 

症例の紹介です。鹿児島市内からのご来院でした。

雑種猫 オス(去勢済) 6歳6か月齢(来院時)

病歴; 初発は2年前 初めに耳と顎にカサブタが出来た 抗生剤の注射をしたが良くならず

口や目の周り、耳や爪の周りにだんだんと広がってきた

プレドニゾロンの投薬により一時良化したが、その後再発し、投薬治療続けるも良くならない

シクロスポリンも追加投薬したが治りきらなかった

昨年の秋に2件目の病院に転院  治療はプレドニゾロンとシクロスポリンの内服と抗生剤の注射

症状は良くならず、だんだん悪化してきた だんだん痩せてきた 最近は食欲も落ちてきた

上記が来院時の主訴です。

当院初診時、体重は2.9kg 体格チェックの指標であるボディ・コンディションスコアは5段階中

1.5から2でかなりやせていました。

まず、診断の前に私が気になったのが、ステロイドによる副作用でした。用量はそう多くはなくても

2年間ずっと使用してきていたということと、最近特に調子が悪いということで、診断よりも先に

そちらが一番気になりました。

ステロイドの副作用で一番怖いのが、糖尿病です。その他にも下痢や元気消失、多飲多尿、肝酵素

上昇、尿路感染症なども認められます。あと、皮膚の菲薄化や筋肉量の減少もみられます。

ステロイドの長期使用では定期的な血液検査や身体検査は非常に重要です。特に体重測定や触診に

よる筋肉量のチェックは簡単な検査ではありますが、体の異変をいち早く見つけることができる

重要な検査です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初診時の写真です。

痂皮病変が特徴的ですが、皮膚は菲薄化しており、全身の筋肉量はかなり低下していました。

まず、全身状態と副作用の確認のために血液検査を行いました。血液検査では、貧血が認め

られました。血糖値は231mg/dl、過去2,3週間の平均血糖値を反映するフルクトサミンも

検査して問題ありませんでしたので、糖尿病はセーフと判断しました。肝酵素も上昇は

認められず、猫エイズと白血病の伝染病検査もともに陰性でした。

次に皮膚のほうは、落葉状天疱を疑ってはいますが、似たような皮膚病を除外するために

一般的な皮膚検査をしました。そして、早く治療に入りたかったので、初診でしたが確定診断

のための組織生検を当日行いました。

1週間後に結果が出て、

落葉状天疱瘡と

確定診断しました。

 

 

当院で治療を開始してから約1か月後の写真です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ完全には引ききっていませんが、だいぶいい状態までもってきました。

調子も良くなってきており、体重は3.4kgまで増加しています。

経過も長く、ちょっと症状もひどかったので、もう少し時間がかかるかなと思って

いましたが、私の予測より早めにいい状態になりました。

いったんいい状態まで持っていけたら、今度はお薬を徐々に減らしながら維持療法

へとシフトしていきます。症状と副作用のバランスをみながら調整していかないと

いけませんので、これからが獣医師の腕が試されるところでもあります。

猫の落葉状天疱瘡は、比較的予後がいいとはいわれていますが、重症例で治療への反応

が悪い難治症例もいないわけではありません。そのような症例では、残念ですが予後不良

となる可能性が高くなります。

治療期間が長くなるほど、お薬の副作用との戦いになってきます。いかに副作用を起こさ

ないようにするかが大事ですが、気をつけていても副作用が出てしまうこともあります。

そのようなときは副作用に対処しつつ、皮膚病の治療を継続していかないといけません。

特に糖尿病になってしまったときは、インスリンを投与しながら治療を継続していかない

といけなくなることもあり、お薬の組み合わせを工夫していかないといけません。

 

落葉状天疱瘡は、犬も猫も診断はそれほど難しくはありませんが、治療が長期にわたる

可能性が高い皮膚病です。そのため、飼い主様に知っておいていただきたいことは、

治療は完治させる治療ではなく、免疫抑制剤を使って皮膚をよい状態にさせる治療で

あり、治療が長くなればなるほど、皮膚の状態とお薬の副作用とのバランスをとって

その都度修正が必要になってくるということです。

いかかでしたか?猫の落葉状天疱瘡はまれな皮膚病ですが、ちょこちょこみられる

皮膚病です。同じような見た目で、感染症の治療をしているのに良くならない場合は

あやしいかもしれません。

 

森の樹動物病院は、鹿児島で犬と猫の皮膚病、落葉状天疱瘡などの自己免疫性皮膚疾患の

治療に力を入れています。

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なお、皮膚科診療の初診は、時間がかかるため予約制とさせていただいております。

皮膚科診察(初診)ご希望の方は、お電話にてご予約をお願いいたします。

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お話とお薬の処方のみとなることもございますので予めご了承ください。