猫の皮膚病③

[2021年04月18日]

今回は、猫の皮膚病の第3回目になります。

猫の痒い皮膚病では、皮膚の症状が人や犬とは異なり、4パターンしかありませんよ

というお話を前回させていただきました。

猫の皮膚病では、見た目の症状だけではなく、その病態自体がまだよくわかっていないものも

多く、診断をする上で科学的根拠が乏しい皮膚病が多く存在しています。

その1つがアレルギーです。

人における”アトピー性皮膚炎”や犬における”犬アトピー性皮膚炎”に相当する皮膚病を猫では、

ちょっと前まで、”非ノミ非食物アレルギー性皮膚炎”と言っていました。

長ったらしい名前ですよね。要は3つあるアレルギー性皮膚炎のうちの残り物の皮膚炎ですよ

ということですが、猫アトピー性皮膚炎とは言いませんでした。言いたいけど、言えない理由

があったからです。

その理由は、猫では人や犬のアトピー性皮膚炎のように典型的な皮膚症状がないということが1つ。

もう1つは、人や犬で測定できるアレルゲン特異的IgE抗体検査が猫ではできなかったため、

猫のIgEの関与がわからないという以前に、その存在自体が証明できなかったからです。

経験的にステロイドに反応して症状が改善する猫の皮膚病があり、それはきっとアレルギーなん

だろうなという程度で、科学的に証明する検査がありませんでした。

そもそも猫にアレルギーがあるのか?とまでいわれていました。猫における信頼性の高いIgE検査

ができるようになったのは5年前からで、私たち開業獣医師が検査を利用できるようになったのは

3年前からになります。

ただ、それまで猫のアレルギーに関して行える検査がまったくなかったわけではありません。

皮内反応試験という検査をすることができました。これは、皮膚に直接アレルギーの原因と考え

られる液を皮下ではなく、皮内に注射して皮膚の腫れや赤みなどの反応を見て判断するという

検査です。大学病院で勉強させてもらっていた時に見せてもらいましたが、なかなか一般の

病院では出来ない検査です。検査手技が難しいからというわけではなく、検査に用いる抗原液

を揃えるのが非常に難しいからです。

実際はアメリカから直接個人輸入で入手するのですが、3~5㏄くらいのバイアルで1本が数万円

します。それが10数種類必要なので、かなりの金額になります。しかも、毎回する検査ではないので

使いきれなければ、期限がすぎて廃棄となってしまうので大赤字です。

また、費用面だけではなく、猫では皮内反応の時に出る皮疹の評価が難しく、犬で行うときより、

ひと手間かける必要があります。しかも、猫の場合、検査中じっとできないのでほとんどの場合

鎮静が必要になります。このような点も、猫が犬よりも厄介と感じる理由の1つです。

この検査結果によって、猫でもアレルゲン特異的免疫療法(減感作療法)を行うことがありました

が、猫では結構治療反応がよかったように思います。

 

ほんのつい最近、2021年に入ってから猫の皮膚病についての新しい論文が出されましたが、

そこでは、人でいうアトピー素因を猫では”猫アトピー症候群”、人でいうアトピー性皮膚炎

”猫アトピー性皮膚症候群”と言いましょうということになりました。皮膚病の定義についての

決まり事ですが、しばらくはこの用語が一般的に使われるようになるということです。

”非ノミ非食物アレルギー性皮膚炎”から、一歩前進したというところでしょうか。

猫の場合、まだIgEの関与等も含めわからないことが多く、人の病態とは異なることも多いと

いう事もあり、こういう言い方になったようです。今後さらに研究が進み、いろいろなことが

解明されてくれば、また呼び方が変わる可能性があります。

”非ノミ非食物アレルギー性皮膚炎”という名称は、2012年にスイスのDr.Favrotらの提唱により使わ

れるようになり、ちょうど9年目を迎えたところでした。今回発表された”猫アトピー性皮膚症候群”

という名称も9年後にはおそらく変わっているはずです。ひょっとしたら、今回は9年もたたないうち

に変わってしまうかもしれません。一臨床家としては、病態解明が今より進み、名前だけでなく、

診断や治療がもっと簡単になってほしいと切に願います。

 

ちなみに、犬において”犬アトピー性皮膚炎”という名称がついているのも、人のアトピー性皮膚炎

とは異なるところがありますよということです。あえて頭に”犬”という文字をつけることによって

人のアトピー性皮膚炎とは区別されています。

 

今回は、ここまでです。3回とも一切写真がなく、文字ばかりでしたね。次回は、実際の症例の

写真もご紹介したいと思いますので、どうぞお楽しみに!

 

 

森の樹動物病院は、鹿児島で犬猫の皮膚病、アレルギー性皮膚疾患などの痒みのある

皮膚病の治療に力を入れています。

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