猫の落葉状天疱瘡

[2021年04月30日]

猫の皮膚病シリーズがまだ途中でしたが、今回はちょっと例外で、珍しい猫の皮膚病のご紹介

をしたいと思います。

猫の皮膚病治療は犬よりもちょっと難しいですよとお話しました。特に痒みを主訴とする猫の

症状は4つあり、症状に対する原因がダブるので診断が難しいということをご紹介しました。

しかし、すべての猫の皮膚病の診断が難しいわけではなく、見た目でほぼ当たりをつけられる

猫の皮膚病も存在します。その中の1つが今回ご紹介する皮膚病です。

 

だいぶ前になりますが、2018年のブログで犬の落葉状天疱瘡のご紹介をさせていただきました。

今回は、その猫バージョンとなります。猫の落葉状天疱瘡のご紹介をさせていただきます。

前回のブログでもご紹介しましたので復習になりますが、天疱瘡という病気は表皮や粘膜上皮

の細胞間接着タンパクが自己抗体によって障害を受け、接着がはがれてしまう皮膚病です。

自身の免疫系が狂ってしまって自分自身を攻撃してしまう、免疫介在性皮膚疾患の1つです。

犬ではまあまあよく見られますが、猫では比較的まれです。まれではありますが、猫でみられる

免疫介在性皮膚疾患のほとんどは、この落葉状天疱瘡です。この皮膚病も猫では、犬よりも

まだわかっていないことがたくさんあります。

落葉状天疱瘡は、人でも認められますが人の場合は水疱ができて、びらん、潰瘍を作ります。

これに比べて、犬と猫では好中球浸潤により膿疱や痂皮が作られますので、見た目が人とは

だいぶ異なります。

犬も猫も痂皮病変、いわゆるカサブタを作るのが特徴的です。初めに膿疱が作られるのですが

膿疱がすぐに破れてしまうため、膿汁が乾燥して気づいたときにはほとんどが痂皮病変として

認められます。犬のほうは、診察時に膿疱が見つかることがありますが、猫のほうは膿疱はほぼ

認められません。猫のほうがおそらく破けやすいのだと思います。

痒みが認められることもありますが、痒みの程度は軽度から重度まで様々です。

発症年齢は若齢から高齢まで結構幅広く見られますが、1歳未満のかなり若齢での報告もあります。

症状の出る場所は、頭部、特に鼻の周りや耳介に認められることが多いですが、爪床(爪の根本)

や肉球にもよく認められます。症状が進行したら、上記以外の部位にも痂皮がどんどん広がって

いきます。

頭部に痂皮病変を作ることが多いので、一見疥癬症と見間違えやすいですが、きちんと検査を

することによって鑑別は簡単に行うことができます。

落葉状天疱瘡の診断に必要な検査は、犬の時と全く同じです。慣れてくると大体、見た目で疑える

ので猫の体をよく観察して、怪しいところをちょちょっと検査すると、落葉状天疱瘡を疑う所見を

確認出来ます。確認出来たら、次のステップとして組織生検を行い、皮膚病理組織学的検査をして

もらうことにより、確定診断となります。落葉状天疱瘡において皮膚病理組織学的検査は、必須です。

病理検査なくして、確定診断はありません。

落葉状天疱瘡を診断する上で大事なのは最初にこの病気が疑えるかどうかと、組織生検をする前に

他の鑑別疾患をきちんと除外できるかどうかです。診断はそれほど難しくはありません。

 

次に治療に関してです。落葉状天疱瘡に限らず、免疫介在性皮膚疾患の治療で大事なのはきちんと

確定診断をすることだと思います。免疫介在性皮膚疾患の治療は、ステロイドなどによる免疫抑制

療法となります。基本的には、他の免疫介在性疾患と同じです。

特に初期の導入治療はガツンと免疫抑制をかける必要があり、免疫抑制剤の薬用量も最大用量で

開始します。確定診断がされていないと最大用量で免疫抑制をかけることにどうしても躊躇して

しまいます。免疫介在性疾患の治療で一番よくないのが、中途半端な治療です。そうかもしれない

けどはっきりわからないから、ちょっと少な目で…と治療をしていくと中途半端にずるずると

よくなったようなならないような状態が続き、だんだんと治療に自信がもてなくなってしまいます。

初期導入治療で自信をもって、免疫抑制用量での免疫抑制剤を使用できるかがポイントとなります。

特にステロイドによる治療には、副作用というリスクもついてついてまわります。副作用を起こし

かねないお薬を使うには、それなりの理由が必要です。勘だけに頼った診断では、リスクを伴う

治療はできません。そのためには、やはり確定診断のお墨付きが必要となるわけです。

 

導入治療で完解(症状の消失)までもっていけたら、免疫抑制剤の用量を徐々に減らしていきます。

減らし方にもコツがありますが、できる限り少ない用量で症状が維持できるところを探っていきます。

猫の落葉状天疱瘡は犬よりも管理しやすく、予後はよいとされています。ただし、薬をやめられる

可能性は低いため、可能な限りお薬を減量することにより、長期にわたって治療しながら管理して

いく必要があります。

長期にわたる治療の中では、皮膚の状態とお薬の副作用のバランスを取りながら、その都度

治療を修正していく必要も出てきます。つまり、完全に症状が抑えきれない場合は、ある程度の

症状には目をつぶってQOLが維持できるところを治療目標とし、なるべく副作用の少ない治療を

目指す必要もでてくるということです。この辺のさじ加減が、獣医の腕の見せ所になります。

 

今回は、猫の落葉状天疱瘡の病気についてのお話でした。次回は、実際当院にて治療中の

落葉状天疱瘡の猫の症例をご紹介したいと思います。

 

森の樹動物病院は、鹿児島で犬と猫の皮膚病、落葉状天疱瘡などの自己免疫性皮膚疾患の

治療に力を入れています。

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